二人と瓜



とある休日。オレは瓜になんとか懐いてもらいたくて、餌やおやつ、おもちゃ等で釣るという、ちょっと情けない懐柔作戦を展開していた。

しかし、色々とやっているがその全てに瓜は見向きもしないどころか、オレの身体を引っ掻く始末…。
お陰で服に包まれている所以外は傷だらけだ。

今瓜はソファのど真ん中に丸くなって眠っていた。
その可愛らしさに思わず撫でたい衝動に駆られるが、それをした途端瓜の引っ掻き攻撃に遭うのは分かっていたので、堪えてその寝姿を堪能するだけにしておく。

スヨスヨと気持ち良さ気に眠っていた瓜の耳がピクリと動いたかと思うと、素早い動きで起き上がり、部屋を駆け出て行った。
突然の瓜の行動に驚きつつも、オレは慌てて瓜を追い掛ける。
辿り着いたそこは玄関で、オレが着いたと同時に扉が開かれた。


「やぁ、出迎えなんて嬉しい事してくれるね隼人」

現れたのは休日だというのにいつもと変わらず学生服を身に纏ったヒバリ。
ヒバリは家主の俺に断りも無く上がり込んできたうえに、オレの腰に手を回すという早業を人が口を挟む前にやってのけた。

「ちょ、近けぇよ!離れろ!」

何とか距離を取ろうと両腕でヤツの胸を押すがビクともしやがらねぇ。
体格は殆ど変わらないんだけど、この差は何なんだ?
あと、瓜の反応も…。なんでそんなにヒバリに身体を摺り寄せて甘えた声で鳴くんだ!?
オレには炎を強請る時くらいにしかそんな態度取らないくせに(しかも超切羽詰ってから)!
やっぱりこの前読んだ血液型の本…ネコに嫌われる。避けられる。って書いてあった、アレ。認めたくないけどやっぱ当たってんのか…?
でも、なんでヒバリには懐くんだよ〜っ!

じとーっと瓜を見ていた俺の顔を強引にヒバリの方へ向けられた。

「痛ぇ!」
「隼人…。またこのネコに引っ掻かれたの?こんな可愛くないネコ出さなきゃいいのに」

自分に意識が向かない事と、オレが瓜に傷付けられた事で不機嫌になったヒバリが本当に忌々しそうに瓜を睨む。
そうして擦り寄る瓜の事も、離れたがる俺の行動も全く無視して、オレの傷だらけの手を取り唇を寄せるヒバリ。

「止めろ!馬鹿!」

渾身の力で振り解こうとするも敵わず、指先への口付けを許してしまった。

「心配してる僕に対して馬鹿はないんじゃないの?…ちょっと、君止めてよ」

拗ねたような視線を向けられたのも束の間。後半は瓜に向けられた言葉だったようで、ヒバリの足元でにゃーにゃー鳴いている瓜を見ると、やはり可愛らしくヒバリに擦り寄っていた。
そんな瓜の可愛らしさに全く動じない、しかし小動物に愛される男が眼前にいる。

「毛が付く」

ヒバリの足で瓜を振り払われては堪らないと、瓜を抱っこしようとするがヒバリの拘束はそう簡単に解かれないうえに、何とか伸ばした手まで瓜に尻尾で叩かれる。
何でこう思い通りに事が進まないかな?

だいたい何故こんな群れるのが大嫌いで、並盛とオレの事だけを好きと言って憚らない男が小さき生き物達に慕われるのか…?
謎や不思議が好きなオレに興味を持ってもらおうという並盛最強の風紀委員長のワナか?


考え事をし出すと周りの事が見えなくなるのがオレの悪い癖。
油断しているとすぐ目の前にヒバリの顔が迫っていた。
危ねぇ!と、何とか顔の間に手を入れてヒバリの口撃を凌ぐ。

…が、

「手を舐めるんじゃねぇ!」

完全防御とはいかなかった。


オレはなんとか瓜に懐いてもらおうと必死。
瓜はつれなくされてもヒバリに甘えて。
ヒバリはオレに見向きもしてもらえず。

広いとは言い難いスペースで、それぞれの矢印は向かい合うことなく一方通行。

そんな二人と一匹の休日。




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今日の1859第1弾


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