繋いだ手



今日は十代目が笹川の買い物に付き合われる為一緒に帰宅されるという事で、いつものお供はお休みである。
一人で帰るべく荷物を纏めて昇降口へと向かっていると、後ろから首の辺りに衝撃を感じた。

「獄寺!一緒に帰ろうぜ」
「痛ってぇ!…てめぇは野球バカのうえにバカ力なんだから、ちっとは加減しろ!って言うかオレに触るな!」

ほんっとムカつく!ただでさえ十代目と御一緒出来ずに苛立っていると言うのに、いけ好かないヤローに絡まれて…今日は厄日だな。
肩に回された腕を振り払おうとしたところで、急に山本に押し倒された。
思いっ切り倒され、一瞬息が詰まる。さり気に山本の腕に庇われていたので体に大した痛みは無かったが、勢いが良すぎて頭をぶつけてしまった。

「ご、ごめん!獄寺!すっげぇ鈍い音がしたけど、大丈夫か?」

大丈夫じゃない…頭がクラクラする。「何しやがんだ!」と怒鳴ってやりたいが声も出せないくらいに…。
ギュッと目を閉じて痛みを堪えていると頭上から冷たい声が降り注いだ。

「君達、僕の学校で群れるなんて…咬み殺されたいの?」
「いや、ヒバリ聞く前に殴りかかってくるし」

どうやら背後からヒバリがトンファーを振るったらしく、それを避ける為に俺と一緒に廊下に伏せたらしい。
山本に庇われたのも、ヒバリの気配に全く気付けなかったのもショックだったが、それにしても頭が痛過ぎる。
山本の心配気な掛け声が耳に入ってきていたが、その声がだんだん遠くなりオレの意識は途絶えた。


目を開けた時自分がどこに居るのか、しばらく分からなかった。
横になっていたそこから起き上がると、自分の右の側頭部にタオルに包まれた保冷剤が置かれていたらしく、それが体の側に落ちた。
意識を失った経緯を思い出し、ぶつけた頭に触れると、ひんやりとしたそこが腫れているのが分かった。触れたせいで痛みが走り、眉を顰める。
辺りを見回すとそこは応接室で、そこに置かれたソファに横になっていたようだが自分がここまでどうやって移動してきたのかが分からない。
そしてこの部屋の主と言うべき人物の姿も無く途方に暮れてしまった。

とりあえずと言うか、いつもの習慣でと言うか、シャツのポケットから煙草とライターを取り出し火を点ける。
いつもならここでの喫煙は行わないが、つい気が緩んでいたのか大きく紫煙を吐き出していた。
再度煙を吸い込もうとしたところで部屋の扉が開き、この部屋で煙草を吸えない理由そのモノが登場してしまった。

「げ」

思わず正直に口を突いて出てしまった言葉と共に、煙草がポロリと膝の上に落ちる。

「わーっ!」

慌てて膝から払い落とし、踏み付けて火種を消そうとした所で、ここが「雲雀恭弥」の応接室だった事を思い出した。
きつく言われた(言われただけでなくトンファーを振るわれた事も幾度もあった)にも関わらず禁煙出来ず、ではせめてここでの喫煙はしないという事を約束したのだが、その約束を破っているところを見られたうえ、足で踏み消すなんて荒業はさすがにまずいと瞬時に判断し手を伸ばす。

「いってー!っし、熱ぃ!!」

拾い上げようと手を伸ばしたところで、その手を上から踏み付けられた。すでに煙草の真上まで持っていっていた手を、である。
下から順に床、煙草、手、ヒバリの足(革靴)。当然火の点いた煙草であったから触れれば火傷する。
慌てて手を引けばそこまで力を入れられてなかったお陰かすんなりと煙草と革靴のサンドイッチ状態から開放された。
手の平を見ると火種が当っていた箇所が赤く爛れた様になっていた。
キッっとヒバリを睨み付けるが、落ちていた煙草を拾っていたのでその視線が受け止められる事は無かった。

「何すんだよ!」
「約束を破った罰」

ソファの側に置かれているテーブルには応接室の一応の備品として高価そうな灰皿やライターのセットが置かれていて、その灰皿にギュッと煙草を押し付けていた。
あ、ここの灰皿が使われるの初めて見た…じゃなくて!

「さっきだっていきなり殴りかかってくるし…お陰で散々な目に遭ったぜ」
「僕の目の前で群れてるのが悪い。…それに君が頭をぶつけたのは山本武のせいでしょ」
「あれは群れてたんじゃなくて、アイツが勝手に絡んできたんだよ」

ヒバリに対する呪詛の言葉をボソボソと呟きつつ…聞こえるように声を出せばトンファーを振るってくるであろう事は分かっているので、情けないが小声である。
手の平を改めて見ると、普段ダイナマイトを取り扱っているせいで火傷の痕が多い。
普段は慣れっこになっているので多少の事では気にならないが、さすがに火種に直接触れてしまった今回の火傷はジクジクと痛みがひどい。

ソファに座って手の平を見ていたオレの隣にドサリとヒバリも腰掛けてきた。
先程起き上がった時にソファに落ちたままだった保冷剤を拾うとオレの手を取り、手の平を冷やし始めた。

突然手を取られて焦り、冷たいはずの保冷剤の感覚が分からず、火傷の部分どころか顔も熱く、ドクドクと妙に鼓動の音が大きく聞こえる。
ヒバリがどんな顔をしているのか、そちら側を見る事が出来ない。
そして自分の赤い顔を悟られないようにさり気無く逆の方を向く。
ふいにヒバリの冷たい指でオレの髪を掻き分け耳朶に触れられ、思わずビクリと体が揺れた。

「ねぇ、耳…真っ赤だよ」
「うっせぇ。放っとけ…」
「いつまで経っても慣れないよね」

だって慣れる程繋いだ事なんか無い。
ぶつけた側頭部よりも、火傷で疼く手の平よりも、間に挟まれた冷たい塊よりも、意識が向かう触れ合った指先。

痛みを与えるコイツが、その痛みを簡単に無くしてしまう。
なんて理不尽な事だ。と思いつつも指先から込み上げてくる嬉しさを誤魔化せない。

繋いだ手から俺の気持ちが漏れて、ヒバリにばれてしまうんじゃないかと更に鼓動が早くなった。




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今日の1859第2弾


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