存在理由



「君が存在する理由って何?」

単に読んでいた小説に「存在理由」なんて出てきたので彼に聞いてみただけ。
聞いた理由はそんな些細な事だった。

「…オレはわざわざ殴られる為にそれを言うのか?」
「一応」

お互いの頭に浮かんだのはきっと一緒の人物。
彼は仕方ないと溜め息を一つついて口を開いた。

「もちろん十代目の為」

うん。分かってたけどね。思わずトンファーに伸びそうになる手を組む事でその衝動を堪える。
そんな僕の耳に飛び込んできた小さな彼の呟き。

「でも…それが全部って訳じゃない」
「…?」
「だって十代目の為だけだったら、お前とこうして一緒に居る事無いだろ…理由が一つじゃないといけない事はないよな?」

僕とした事が、学校の成績は良いが普段馬鹿だ馬鹿だと罵っているこの子に気付かされるなんて…。
確かに彼の言う通りだ。

彼は照れたように笑っていた。
その笑いの中には僕がいる。
組んでいた手を解き、彼を引き寄せる。

存在理由が幾つあったって良いって知ったばかりだけど、今の僕の唯一の存在理由…そっとその笑みに口付けた。




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今日の1859第4弾


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