キス



いつもヒバリから仕掛けられるそれは自然で、ふとした瞬間に気付くと、もう目の前にアイツの真っ黒な瞳が近付いていてオレはただ瞼を下ろすだけ。
あとには柔らかな感触。

恥ずかしくていつまでも慣れないが、嬉しくない訳ではない。
…いや、まぁ思考の中で意地を張っても仕方無い…本当はすごく嬉しい。
だから、オレからヒバリにしても、アイツも嬉しく思ってくれるのかな?って思ったんだ。

そしていざ自分からやってみようと思うとこれがかなり難しい。
二人きりになって今日こそはオレから!と意気込んで機会を窺うも、それが成功した事は一度も無い。
ヒバリは本当に自然にやってのけるんだよな。

そうやって考えていると項辺りの髪の毛をそっと引っ張られ、顔を上げた瞬間すでにヒバリの顔が目の前だった。
最近では素直に目を閉じて受け入れるそれを俺は横を向く事で避ける。

「どうしたの?」
「いや…あのさ…」

言い淀むオレをヒバリは急かす事なく、先程引っ張った髪の毛から項の辺りを撫でて、オレが言葉を続けるのを待っていてくれた。
その優しい手に力を貰い、気になっていた事をヒバリに聞く。

「お前は何でそう簡単にキス出来るんだ?」

横を向いたままでちょうど髪の毛で顔は隠れていたがヒバリの視線を感じる。
恥ずかしい質問をしたせいで熱を持つ顔を自覚するが、しばらく治まりそうになくヒバリの方を向く事は出来ない。

「簡単にしてるように見える?」
「すごく」

ヒバリは頷くオレの手を取ると、自分の心臓の上に導いた。
服と皮膚を隔てて触れたそこは、想像以上に早い鼓動をオレに伝える。

「僕だって一応緊張はするし、避けられると悲しくも思うよ」

いつも余裕が無いのは俺ばかりだと思っていたけど、そんな事は無かったらしい。
早い鼓動と悲しそうなヒバリの顔がオレを押してくれたのか、ヒバリの口にそっと自分のそれを押し当てた。

初めて自分から触れたそこは、ヒバリから口付けられた時と同じ温かさ。
そうして見えたのは嬉しそうなお前の顔。





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今日の1859第5弾


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