確信犯
もうすぐ授業が始まろうかという時間、ヒバリに呼び出されていたので面倒だったが応接室へと向かう。
風紀委員長自ら授業をサボるのを推奨するかのように、4限が始まる頃に来るよう言われた。
対外的には風紀違反の注意という事になっているが、実際はそのまま昼休みまで拘束して一緒に昼飯食べようとかそんな下らない理由だ。
一応ヒバリとオレはお付き合いというものをしている…。
その事を知っているのはお互いしかいないが…。
基本俺は十代目とお昼を御一緒させて頂く為、ヒバリのその誘いを受ける事は殆ど無いのだが、それが毎回だと(一応付き合っている身としては…)さすがにアイツに悪いので、稀に気が向いた時は受けるようにしていた。
しかし、付き合っている事を十代目にまで秘密にしているというのが、どうにも落ち着かず、正直に打ち明けたい気持ちと、バレるのが嫌だという気持ちがせめぎ合って、もう随分経つ。
いつまでも先延ばしにしておけるワケもない…。
と、日課の考え事をしているうちに応接室の前に辿り着いた。
すでに授業が始まっている為学校内は(というより応接室近辺は普段からだが)静寂に包まれている。
ノックをして声を掛けようとしたところで、室内から何かが倒れるような大きな音がした。
慌てて扉を開くとそこにはヒバリを押し倒す跳ね馬の姿があった。
「…」
「…」
「…お邪魔しました」
一瞬三人とも無言であったが、一番に行動出来たのは獄寺であった。
開けたばかりの扉をそっと閉めようとしたところで、ようやくヒバリが声を出した。
「ちょっと待って!」
「退いて」という声に引き続き大きな音そして跳ね馬の「痛ぇ!」という声が聞こえたので、ヒバリが跳ね馬を押し退けたのだろう事は扉越しに推測出来た。
すぐに勢い良く扉が開かれヒバリが顔を出す。
「入って」
「先客居るみたいだし、授業出るから教室戻る」
しかし、オレの言葉を無視して、ヒバリは俺の腕を掴むと応接室の中に引き込み「すぐ終わるからちょっと待ってて」と、強引にソファに座らせた。
「よぉ、スモーキン・ボム。…珍しいところで会ったな」
恐らく先程ぶつけたのであろう腰の辺りを擦りながら跳ね馬が、獄寺の対面のソファに腰掛けたヒバリの隣に座る。
跳ね馬の問い掛けはそっぽを向いてシカトだが…それにしても…ちょっと距離が近過ぎるんじゃねぇか?
やたらヒバリと跳ね馬の座る位置が近く感じて、こめかみあたりにピクリと動くのを感じたが気付かなかった振りをする。
「ツナん家行ったら学校だって聞いてさ。でも今授業中じゃん。待ってる間暇だから恭弥に相手してもらおうと思ってさ」
「へ〜。それで馬乗りになってたワケ?」
つい嫌味っぽく言ってしまったのは仕方無いだろう。
しかし超鈍感男にはそれも通じず「いや、コーヒー入れようと思ったらさ…」なんてまたミラクルなへなちょこ談をし始めた。
バカの話は聞き流してヒバリの方へチラリと視線を向けると、全く気にした風もなく黙々と手にした書類に目を通していた。
ちょっとはお前も弁解くらいしたらどうだ!?
そりゃ、コイツのへなちょこに巻き込まれたって事は分かるけどよ!
「あっ!」
ブツブツと心の中で文句を言っていたら、話の途中で相槌を求めた跳ね馬がヒバリの肩を抱いていた。
すぐにヒバリから払われてはいたが、滅多に他人と接触しない男のそれを目にして、思わず大きな声が出てしまった。
「どうした?スモーキン?」
「…オレやっぱ授業戻る」
今日十代目当りそうだっておっしゃてたし、とかなんとか苦しい言い訳をしながら応接室を後にする。
今度はヒバリも追い掛けては来なかった。
何だよ!アイツ!自分から呼び出しておいて…。
付き合ってるヤツの前であんなん有りか!?
逆の立場だったらぜってぇートンファーで滅多打ちのくせに…。
って、アイツ本当なんで何も言わなかったんだろう?
もしかして跳ね馬と本気でそういう仲になったから察して別れてくれって遠回しに言われてるとか!?
その頃獄寺の去った後の応接室では…
「あなたも大概性質が悪い」
「だってアイツ可愛いんだもん」
「否定はしないけど、他人が口にするのは不愉快だ。それから、さっさと離れろ」
馬乗りになっていたのは偶然だが、そこからの獄寺の反応はディーノの格好の餌食となっていた。
まさかこのへなちょこにからかわれていたと知ったら獄寺は烈火の如く怒り狂うだろう。
「良かったな恭弥。結構愛されてるじゃん」
「それも、知ってたよ。あの子はただ意地っ張りなだけだってね」
それで満足していたが、たまにこういう風に悋気を露わにされるのも悪い気はしない。
この後獄寺を宥めるという大仕事が出来てしまったが、先払いで代金を貰ってしまったし他人に任せるような事でもない。
もっとも、それも楽しみだと思うなんて僕も末期だな。
さて、どうやって彼を宥めようか…。
終
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今日の1859第8弾