片恋



あの日からオレはおかしい…。
あの日、十年後に飛ばされてから…そこで十年後のヒバリと会って以来こうなってしまった。

現在のヒバリを見ただけで急に心拍数が上がるし、顔が熱くなってまともにヒバリの顔を見られない。
でも、姿を見ない事が続くと残念に思ったり…。
前は注意されて反抗してトンファー振るわれてボムで応戦って事もあったけど、最近じゃぁ何だか恥ずかしくって面と向かっていられないし、文句も言えない…。

一度などヒバリに注意されているオレの様子がおかしかったので十代目に心配されてしまった事があった。
それがまた、余計に恥ずかしさを募らせたのだが…。

授業だってよくサボっていたけど、最近は教室からは出ないで寝る事にしてる。
だって、屋上とかで遭遇したらどうしていいのか分からないし。

そんな日がしばらく続いていた。

今日は十代目が補習の為放課後居残りとなってしまわれた為、オレは時間潰しとして図書室に来ていた。
本当は十代目のお側に居たかったのだが、教師に注意され、十代目にお願いされた為仕方なく教室を出た。

以前だったら屋上で煙草を吸って、昼寝ってコースだったが、屋上はアイツとの遭遇率が高過ぎるので止めておく。

図書室の日当たりの良い席に座って本を読んでいたが、その本が思ったほど興味をそそられるものではなかったようで、直に睡魔が襲ってきた。
オレはそれに抗う事をせずに机に突っ伏し、すぐに意識を手放した。

少し寒気を覚えて身震いと共に目を開けると、目の前にオレと同じように机に身を倒しているヤツが居た。
オレの方に顔を向けて、ジッと此方を見ていたので、しっかりと相手の顔は見えていたのだが、起きぬけの頭でしばらくその人物を認識するのに時間が掛かった。

「ひ、ヒバリっ!」

ようやくと言っていい程の時間が経ってから気付き、気付いた途端慌て過ぎて椅子から転げ落ちてしまった。

「図書室で騒ぐな」

さも煩そうな顔でオレに注意してきたのはヒバリだった。
オレの心臓は急に鼓動を早めたうえ、顔が赤くなるのが分かる。
早くここから退散しようと思ったところでヒバリが話し掛けてきた。

「君さぁ…最近おかしくない?」

オレが近頃自分でもおかしいと思っていた事をヒバリに気付かれていたなんて思いもよらなかったし、オレの事を気に掛けてくれていたというのが何だか嬉しかった。

十年後のオレとヒバリの関係。
あの日から十年後のヒバリと過ごした5分間の事を思い出すと未だに赤面してしまう。
一体いつからどうやってあんな関係になってしまったのか全く分からないままこっちに戻ってきてしまい、そしてオレ一人勝手に意識して…。

オレにあんな態度で接してきたのは十年後のヒバリであって、今オレの目の前にいるヒバリじゃない。
それははっきり分かっているんだけど、現在のヒバリを見るとどうしてもあの時の事を思い出してしまって平常心ではいられなくなる。

「ほら、また。前はうるさいくらいに突っかかってきたくせに、最近随分と大人しいし、僕の事避けてる割にはやたらとこっち見てるよね。一体何企んでるの?」

企んでるって…そんな風に思われてるのが何だか悲しくなった…。
お前が可愛いとか何とか勝手な事言ったんだろうっ!って怒鳴ってやれたらどんなにいいだろう…。
お前のせいでオレは苦しんでるのに、って言ってやれたら…。

それが無理だって事は分かってる。
だって、コイツが言ったわけじゃない。
蕩けてしまいそうな視線で、甘い言葉を囁いて、優しいキスを施し、暖かい大きな体でオレを包んだのは十年後のヒバリで、今目の前に居るヒバリじゃない…。

ランボに言って十年バズーカで十年後に飛ばしてもらおうか、と思った事は一度や二度ではない。
でも、それでアイツに会える確率なんて相当低いだろう…十年後のヒバリはあの日十年後のオレと久し振りに会えたって言っていた。
そしてオレは何度もこっちのヒバリに十年バズーカを撃ったら確実に会える…って考えた。

そんな末期な事を考えてしまう程、十年後のヒバリに会いたかった。
ずっと気付かない振りをしていたけど、本当はとっくに分かっていた。
オレが十年後のヒバリの事を好きになってしまった、って事。

自覚した瞬間に失恋だから…気付きたく無かったんだ。
だってアイツには十年後のオレがいて、それどころか生きている時間すらも違う…。

ヒバリが目の前に居るっていうのに、思わず泣きそうになり、ここを去ろうと慌てて立ち上がって踵を返すも、ヒバリに手首を掴まれる。

「ちょっと!…本当にどうしたの?」

オレはヒバリの問い掛けに答えることが出来なかった。
ヒバリの手はあの日の…十年後のヒバリと同じ暖かさでオレを混乱させる。

ヒバリの方を振り返る事無く、掴まれた腕を振り解いて図書室を逃げる様に…いや、実際逃げ出した…ヒバリの前から…。

まるで心臓がそこにあるかのように、ヒバリに掴まれた手首が脈打つ。
反対の手でそこをギュッと握り締めて、逃げ込んだ無人の教室で蹲った。

そこでオレはヒバリの体温が移ったような自分の手首に口付けようとして、寸でのところで寄せた手首を離した。
半ば無意識でおこなった自分のその行動が信じられなくて混乱する。

オレをこんな風に変えた十年後のヒバリが憎くて…でも誰よりもそのヒバリに会いたかった…。




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今日の1859第17弾


2008.11.16 1859net

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