「隼人。…起きて」

可愛い顔をして気持ち良さそうに寝ている僕の恋人。
よく寝ているところを起こすのは可哀想だけど、いい加減起きてくれないと時間に間に合わない。
横向きに背中を丸めたようにして寝ている彼の肩を小さく揺する。

「…ぅうん。」

小さな呻き声をあげて上掛けの奥に潜り込んでしまった。

「はーやーと。お願いだから早く起きて」

無視…仕方無い、これだけは使いたくなかったが最後の手段だ。

「隼人。君も沢田を迎えに行くんでしょう?早くしないと遅れるよ」

上掛けごとピクリと彼が動いた。
でも、まだ出てこない。

「…もしかしたら山本武の方が早く着いちゃうかもね」

止めの言葉を掛けると、最初に腕を、次いで顔を出した隼人…しかし目を閉じたまま、出した腕を彷徨わせている。
僕は彼が何を望んでいるのか分かって、彼のその望みを叶えてあげるべく身を屈めた。

僕の首に隼人の腕が絡まって、引き寄せられる。
そのまま抗う事無く隼人の唇に朝の挨拶。
すぐに身を起こそうとしたが、隼人が両手で僕の首に手を回して引き寄せてきた。

「んむっ!?」

珍しく隼人からの熱烈なキス。
僕の唇の間から隼人の起き抜けの、熱い舌が滑り込んできた。
甘美なそれをじっくりと味わいたい衝動に駆られ、思わず舌を絡めようとしたが今日はどうしても外せない委員の仕事があり早く登校しないといけないのだ。
こんなに甘い誘惑を振り切るのは相当辛い事だけど、仕方無い…隼人の舌を軽く吸って、口を離し、彼の唾液で濡れて光る唇を一舐めした。

「続きは夜に…ね。朝ごはん出来てるよ。顔洗っておいで」

寝癖で四方に飛び跳ねてる隼人の髪の毛を梳いてあげながら声を掛けるが、隼人は明らかに不機嫌な顔で僕の手を取った。

「ヒバリ…いっしょにねよう」
「ダメ。ほら早く準備しないと沢田のお迎えに行けないよ?」
「じゅうだいめ…かぜひいてきょうやすむってれんらくきた…からいっしょにねよう」

あぁ…何でこんな日に限って…。
いつも僕が誘っても素気無く断るくせに。
確りと覚醒しきってない、起きたばかりのふにゃふにゃ柔らかそうな隼人…あぁ、可愛い。
抱き締めて、キスしてとろとろに甘やかしてあげたい…。

でも…!今日は本当にダメ!
掴まれた手をそっと外して。

「もう起きたよね。沢田が休みならノート取ったりするでしょう。遅刻出来ないよ」

朝ごはん出来たから、そう言って足早に寝室を出た。
いつまでもあそこに居てはいけない…あんな魅惑的な隼人に捕まったら最後、今日の登校はお昼からになってしまう。

キッチンで温めた味噌汁をお椀によそっていると隼人がスリッパをペタペタ鳴らしながらやってきた。
ギィーっと音を立てて椅子を引いて、勢いよく腰掛ける…ご機嫌斜めだ。

「はい。熱いから気を付けて」

食事の支度も整って、二人向かい合って座り、いただきます。
ずずーっ、といつもより隼人が味噌汁を啜る音がキッチンに響く…気まずい。

しばらく無言で食事をしていた時だった。

「!? は…隼人?」

名前を呼ばれ上目遣いで僕の方をチラリと見る隼人。
でもその顔は不機嫌なままで…。

「何だよ?」
「何って…足…」
「足が何?」
「…いや…。あのね今日は本当に外せない用事があって…」
「だから?」

だから、君の誘いには乗れないんだよ…って言っても、隼人は爪先で僕の股間をグリグリと弄るのを止めなかった。
何で今日なの?いつも僕が誘っても毎回断るくせに…。


二人揃ってご馳走さま。
結局食事が終わるまで隼人からの責め苦が終わる事は無かった…。

いつも僕が洗い物をしている間に隼人は身支度を整えるんだけど、今日はシンクの前に立つ僕の背中に貼り付いて離れない。
エプロンをした僕を背後から抱き込んで、耳の後ろに唇を当て時に舐め、延々甘い声で誘いの言葉を紡いでいた。
そうして更に僕の股間を撫で摩るのだから余計に堪らない…。

「ヒバリ。…なぁ、今日はずーっと一緒にベッドにいよう。二人できもちー事しようぜ」

これ何の修行?
どんな荒行もこの誘惑に耐える事に比べたら、苦も無くこなせそうだ…。
それに今日の隼人…一体どうしちゃったんだろう?こんな発情期のネコみたいな行動…彼から誘ってくるなんて稀だし、第一彼は明るい時にそういう事に及ぶのをすごく嫌がる。
背中に貼りついた隼人の誘惑に耐え抜き洗い物を終えた僕は隼人の腕を外して向かい合った。

「一体どうしたの?あのヤブ医者に変な薬でも呑まされたんじゃないだろうね?」
「何だよそれ?オレが自発的にお前としたいって思っちゃダメなのかよ?」
「ダメじゃないよ。でも今日はどうしても外せない用事があるの。だから我慢して?」

今度は僕が隼人の腰に手を回し、彼の額と瞼にキスをした。

「いっつもオレが嫌だって言っても無理矢理やるくせに…もう、いい!」

プイっと音がしそうな勢いで踵を返し、僕の腕から出て行った隼人。
はぁー…完璧拗ねちゃったね、あれは…。

散々隼人からの誘惑を受け続け、それをかわし続け、もう出掛けないといけない時間が差し迫っていた。

「隼人。行ってくるね」

声を掛けつつ寝室の扉を開けると、ベッドの上にこんもりとした山が出来ていた。
僕は今日幾つ目か分からないくらいの溜め息をまたついて、ベッドの縁に腰掛け恐らく頭であろう場所を上掛けの上から撫でた。

「隼人。準備しないと遅刻するよ」

返事が無い…。
それに時間も無い…。

朝のうちの仲直りは無理だな…今日帰ってからのご機嫌取りが大変そうだ、と思うと朝から気が重いけど…。
もう諦めてベッドから腰を浮かしかけたところで、上掛けの山の中からにょきりと白い腕が出てきて僕の腰をガシリと掴んだ。
立ち上がり掛けていたせいで油断していた。引っ張られそのままベッドの上に転がされる。

「捕まえた」

顔を出した隼人はにんまり笑うと僕の体の上に乗っかって、キスをしてきた。
ぷちん…と頭の何処かで何かが切れたような音が聞こえた気がした。

だって、隼人が起きてからずーっと誘われ続け、僕の股間はすっかり硬くなっていたし、隼人もしっかりとした自分のそれを僕のモノにグリグリ押し付けてくるのだから…むしろ今まで耐えた僕を褒めて欲しい。
キスを続けながら隼人の体に手を回し、僕が上になり今朝から握られっ放しだった主導権を僕が奪う。
堪え続けたせいでいつもより大分激しいキスに、ふぅふぅとお互い激しく息が漏れるが構わずキスを続ける。

唇同士のキスから首筋にそうして段々と下に降りていくべく、一旦顔をあげると、隼人のエメラルドの瞳が僕を見詰めていた。
ようやく望んでいたものを与えられ嬉しそうな隼人。
僕も彼から欲されているという事がこのうえなく幸せで自然と笑みが浮ぶ。

「愛してるぜ…ヒバリ」

愛の告白なのに艶っぽさなんて皆無。
ニッカリ、って言う擬音がピッタリな笑みでそんな事言うものだから…手加減なんて出来るワケがない。

「僕もだよ…だから、覚悟してね」




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今日の1859第20弾


2008.11.22 1859net

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