お揃い
「ヒバリッ!お前また人のパンツ穿いてんだろっ!」
オレとヒバリは所謂お付き合いというものをしていて、最近ではヒバリがオレの家に入り浸っている事が多い。
だんだんとヒバリの私物がオレの部屋に増えてきたが、まぁ別にそれはいい…。
でも、そうやって物を増やしているのに何で人の下着を穿くかな!?
「別にいいじゃない。サイズ一緒なんだし」
「お前の方がちょっとデブだろ!」
「デブじゃない!筋肉質なだけだ!」
「固太り!」
「咬み殺すよ」
「そういう事は人のパンツ脱いでから言えよな!」
オレはそれだけ言うと、ヒバリが何か言い返してくる前に思い切り扉を閉めて風呂場へと向かった。
ヒバリは人の服着たりするのをすっごい嫌がりそうに見えるのに意外に頓着しない。
普段の部屋着は和服だけど、たまにオレのTシャツとかハーフパンツとか使ってるし、初めてオレの髑髏柄のTシャツを着たヒバリを見た時は、写メを撮ろうとして携帯をサバ折りされかけた。
制服用のカッターとかネクタイなんかも、もうどっちがどっちの物かなんて分からないしな。
でもその位なら全く問題無いし、オレだって気にならない。
さっきは腹立ち紛れに「デブ」なんて言ったけど、実際オレと殆ど体型は変わらないし…でも、さすがに下着まで一緒は無しだろ!
気持ち悪いとか無いのかな?アイツ?
頭と体を洗って湯船に浸かるとムカついていた気分も少し落ち着いてきた。
オレは元々イタリア育ちなせいも有り、風呂はシャワーだけっていうのが普通だったが、ヒバリが家に来るようになってから湯船に湯を張るようになった。
こうやって湯船に浸かっていると、寒くなり始めた今の時期、よく今までシャワーだけで過ごしてこられたもんだと我ながら思ったりするくらいに、オレは湯船に浸かるのを気に入っていた。
ゆっくり寛いでいるところに脱衣所の扉が開く音がした。
風呂場と脱衣所を仕切る磨りガラスに黒いシルエットが見える…ヒバリだ。
さっきデブって言った事を根に持って、文句でも言いにきたんだろうか?
「君さ…」
「何だよ?言いたい事があるならハッキリ言えば!?」
「じゃぁ言わせてもらうけど!体育とか着替えがある時にお気に入りの下着穿いていくの止めてくれる?」
なっ!な…っ!?何だって〜〜〜!?
あんまりな指摘にオレが言い返せないでいると、尚もヒバリは言い募ってきた。
「僕が気付いていないと思ってたの?どうせあのムカつく草食動物の為とかでしょ」
「むっ、ムカつく草食動物って誰の事だよ!?」
「分かってるくせに、わざわざ言ってほしいの?君、今裸だよ。僕がそれを言ったらそのまま飛び出してくる気?まぁ僕は大歓迎だけど」
磨りガラス越しなのにアイツが「ふふん」と嫌味な笑いを浮かべたのが透けて見えた気がした。
アイツはオレが出て行けるわけ無いと思って言ってるんだ…まぁ、実際恥ずかしくって出て行けないけど…。
オレは湯の熱さと相まって、顔が熱くなるのが分かった。
ヒバリが言った事が当っていたから…確かにオレ体育とかあるとお気に入りっていうか…そういうの穿いて行ってる…。
だって十代目の視界に入った時に変なの穿いていたくないじゃん!でも、それをあっさり認めるのも恥ずかしい。
「べ、別に体育の時に気に入ったの穿いてったりしてねーぞ!曜日でパンツ決めてんだよ!だから、たまたまだ!」
「嘘ばっかり。彼氏がいるっていうのに、何で他の男の為に気合いれて下着選ぶかな?僕がいい気しないの分かるでしょ?」
「か、彼氏とか言うなよっ!」
「彼氏でしょ。ちゃんとお付き合いしてるんだから」
もう、やだコイツ…。
「お前いい加減そこから出てけよ!」
「何で?…君こそ早く上がったら?いい加減にしないとのぼせるよ」
その後も延々言い合いをしていたが、いかんせん、オレの方が状況が不利だった。
熱さで頭がクラクラして、考えてものを喋れない。
「ちょっと、君。本当に出てきたら?さっきから呂律が怪しくなってきてるよ」
「そう思ってん…なら、さっさと出て…け」
「出て行くからちゃんと上がってよ!」
「今更そんな恥ずかしがらなくても…」とか何とかブツブツ言いながらヒバリが脱衣所から出て行った。
よ、ようやく上がれる…あ〜、マジやばい…。
這うようにして浴槽から上がり、扉の取っ手に縋り付くようにして立ち上がる。
そうしてその扉を開けた瞬間、一瞬意識が飛んで気付いた時には浴室の床に倒れてしまった。
痛って〜っ!
飛んでいた意識が床で頭を強打したせいで戻ったらしい…マジ痛い…。
でも倒れた床がひんやりして気持ち良かったので、そのまま貼り付くように横になっていると慌ててヒバリが浴室の扉を開けて入ってきた。
「隼人っ!」
あ〜もう最低…。
素っ裸で風呂場の床に倒れ込むオレ…これじゃあ、何の為に我慢して風呂に入ってたんだか…。
でもダルくて声も出せず、目すら開けられないでいた。
「隼人っ!死んじゃ嫌だっ!」
マジ、コイツ疲れる。
「死んでない…。ヒバリ、ベッドに運んで」
声を出すのも億劫だったが、ここでギャーギャーコイツに騒ぎ立てられながら、裸を見られるなんて耐えられない…。
何とかヒバリにお願いして、バスタオルで包んでベッドまで運んでもらった。
もう…横抱きで抱えられても文句を言う元気も無かった。
髪の毛なんかも濡れたままでベッドに下ろされたが、そんな事に構っていられないくらい具合が悪かった。
ヒバリは甲斐甲斐しくそんなオレの世話を焼いてくれた。
水を飲ませ、口に氷を含ませ、額と項に冷却シートを貼り、団扇で扇ぎ、貼り付いた髪の毛を払い、手を握り、「もう君のパンツ穿いたりしないから死なないで」と声を掛け続けた。
そんなヒバリに、もうパンツくらい兼用でもいいや、なんて事を考えながら…そうしてヒバリの必死な声を聞きながら…オレは意識を手放した。
終
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今日の1859第22弾
2008.11.26 1859net