コスプレ



移動教室で廊下を歩いている時だった。

弧を描いて十代目の方へ飛んでくる物体を視界の端に認めたオレは十代目のお体を(失礼ながら)突き飛ばし…これまた不本意ながら後ろに居た山本に十代目を受け止めさせた(山本がそつなく十代目のお体を受け止めるだろうという事は分かっていた…一応そのくらいはやるヤツだと認めているつもりだ)。
そうしてオレは飛来する物体に向けてボムを構えたが…相手が悪かった…。

飛んできたのはたっぷり水が入ったバケツで…オレは盛大にその水を頭から引っ被ってしまった。

それを此方に放ったヤツをまずボコボコにしてから聞いたところによると、水の入ったバケツを振り回して遊んでいたが(遠心力で中の水を零さずに振り回せるかという…なんて下らない遊びだ!)あまりに勢いが付き過ぎ、止めるに止められず、腕力の限界に達したところにオレ達が通り掛かったという訳らしかった。

十代目の勧めも有り、とりあえず保健室へ行き濡れた服を脱いで毛布に包まる。
生憎ジャージの類を家に持ち帰っていた為着替えが無かった。
山本が野球部の練習着があるので、それを部室に取りに行っているが、ハッキリ言ってそれを着るのは嫌だ。
でも、オレがこうして毛布に包まっていると十代目が申し訳なさそうになさるので仕方無い。

「あ〜あ〜。こんな美味しい状況が何で隼人なのかね〜。可愛い女の子だったら良かったのに」
「アホか!てめぇ!この状況を女で望むなんて、フェミニストが聞いて呆れるぜ」

当然保健室なのでシャマルが居て、そうして下らない茶々を入れてくるものだから余計に腹が立つ。
シャマルが「うるせぇ」なんて言いながらオレの頭にタオルを被せ、わざとらしく乱暴に手を動かした。
「止めろ!」と言おうとしたところで、勢いよく保健室の扉が開いて飛んできた何かがシャマルの顎にクリーンヒットした。

「いってぇーっ!」
「やぁ。楽しそうな事してるね」


あぁ…もう…。サイアク…。

飛んできた何かに次いで保健室に入ってきたのはヒバリだった…。
ヒバリのすぐ後ろで山本が困ったような顔をして立っていた。
顔の前に手を立てて口ぱくで「ゴメン」なんて言ってやがる…チクショウ厄介なモノ連れて来やがって、後で果たしてやる。
シャマルの顎に当ったのはヒバリが投げたトンファーだったようで、ヒバリは顎を押さえてしゃがみこんだシャマルを無視して、床に転がったトンファーを優雅な動作で拾っていた。

「もう授業は始まっているよ。関係の無い生徒は教室に戻って」

お前が一番関係無い、なんて誰も口に出せなかった…。
それでも十代目は(十代目が気にされる事なんて何も無いのに)責任を感じて、残ろうとされたのでオレは教室に戻って頂くようお願いした。

「着替えなら応接室にあるから来なよ」

すごく嫌だったが、下着も穿いておらず、毛布だけを身に纏った今の状況でヒバリに逆らう事が出来なかった。
濡れた制服一式を手に毛布を巻いた状態で応接室まで移動。
今が授業中で本当に良かった…。

応接室に着くとヒバリにハンガーを手渡され、コートハンガーにそれを掛ける。
一応十代目と山本が2人で服の端を持って絞ってくれたが、それでも帰りまでにコレが乾くとは思われない。

「後で委員のヤツにアイロンかけさせるから、それまでこれでも着てれば」

そう言って放られたのは風紀委員御用達・学生服だった。



「…君…学生服あんまり似合わないね」

ヒバリに言われるまでも無く自分でもそう思う。
それでも野球の練習着よりはましだと自分に言い聞かせた。
ソファに腰掛け、ヒバリが入れた暖かい紅茶を飲んでいるとすぐ隣にヒバリが座った。

「ねぇ…」
「何だよ?」

「したくなってきちゃった」

ヒバリはやけに艶っぽい声でオレの耳に吹き込むようにそう言うと同時に肩にまわした手で逆の耳を弄り始めた。
思わず大きく体が震えたが、ティーカップにはまだたっぷりと紅茶が入っていて、カップを掴む両手に力が入る。

「止めろ!馬鹿っ!!」
「ひどいな馬鹿は無いでしょ」
「ちょっ…!零れる!」
「うん。だからちゃんと持っててね」

口の端をキュっと上げて可愛らしく笑うヒバリの手は休むこと無くオレの耳や項を撫で、更に逆の手では太股の辺りを触っていた。

やばい!やばい!やばいっ!
学校で!しかもこんな昼日中から絶対無理!

ヒバリと付き合い始めて数ヶ月。
体を繋げた事はあるが、まだ慣れるほど回数を重ねた訳でも無かった…というかアレに慣れる日がくるとは思えない…。
始まる前も最中も終わってからもいつだって恥ずかしいし、普段する時だって絶対暗くないと無理だった。

「お前さっきオレに学ラン似合わないって言ってたじゃん!何でそれが急にっ!?」
「あんまり似合ってないけどさ…見慣れない格好で興奮しちゃったのかな?」

こっ!興奮って…超真顔で言われても…。

「じゃぁ!家で!家に帰ってからにしよう!ほら学校で風紀委員長が風紀乱すような事しちゃまずいよなっ!」
「ダメ。今、このソファの上で君を犯したい」

死んだ…何でコイツはこういう事をさらっと言うかな…。

「色が…きっと君の肌の色はこの黒いソファに映えるよ」

続くヒバリの意味不明な言葉にオレは訳が分からないながらも恥ずかしさで顔が熱くなり、そして触られている体も熱くなり始めていた…。
そこでようやくヒバリがティーカップ取り上げ、机に置いた。
オレはそれで思う存分抵抗出来るようになったのだが、すでにヒバリの言動のせいで体は力が抜け、頭も何も考えられない程にぼーっとしてしまった。
そんな緩くなったオレをヒバリはソファに押し倒し、上から眺める。
ヒバリはオレが着ているカッターシャツのボタンを一つずつ外して寛げると、もう一度上体を起こして満足そうな顔で、うん、と一つ頷いた。

「やっぱりよく似合う」

普段、もっとボタンは留めろだの何だのお説教してくるヤツが、人の服半分脱がせて満足するとは…。って言うかコイツの欲情するポイントが分かんねぇ…。
いつもならもっと激しく抵抗しただろうに、さっきから萎える台詞連発のヒバリのせいでオレはぐったりしてしまい、もうどうにでもしてくれ状態だった。

そうしてオレは上から降ってくる口付けを受ける為に目を閉じた。



後日、学校内で風紀委員を見る度に顔を赤くするオレにヒバリが注意してきた。

「ちょっと。風紀委員が変な勘違い起こすから止めてくれる?」
「自業自得」

珍しく何も言い返せずにいるヒバリ。

学生服を見ても照れなくて済む日はくるのかな?
せめて風紀委員達が咬み殺される前には…と思うが、当分は難しそうだ…。




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今日の1859第23弾


2008.11.28 1859net

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