嫉妬



※近未来勝手設定です→雲雀さん21歳(大学生in日本)×獄寺くん20歳(マフィア見習いinイタリア)


「隼人?何してた?」
「仕事」
「今日部屋に戻る?」
「何で?」
「今日指定で荷物送ったんだけど」
「うーん…戻れっか分かんねぇけど、誰かに受取ってもらうようにしとくよ」
「ダメ。親展扱いだよ。ちなみに今日中」
「はぁ?手紙じゃあるまいし…それに今日中って…何?生もの?」
「うん」

って会話を電話でしたのが今朝だった…日本とイタリアに離れてからというもの、ヒバリの我儘をきく事も滅多に無かったので、仕方なくその我儘をきいてやる事にした。
書類仕事を自室でこなすべく部屋に持ち込み、いくらか時間が経った頃、部屋の扉がノックされた。


そして、今オレの目の前には「ナマモノ」じゃなくて「イキモノ」がいる………ヒバリだった。


「来ちゃった」
「…」
「隼人?」


固まってしまったオレを、客人であるヒバリが促し、部屋の中へと戻った。
オレはヒバリに両肩を押されてソファに座らされ、ヒバリは荷物を降ろしジャケットを脱ぐと、お茶を入れ始めた。

「大学も休みになったし。しばらくこっちに居るからね。…って、ちょっと隼人?いつまで呆けてるのさ?」

だって…本当にビックリしたんだ…。
最後にヒバリに会ったのはいつだったか思い出せない位にずっと前で…ヒバリ不足が続き過ぎたうえに、朝、電話で話したもんだからとうとう幻覚でも見たのかと思った…。
って言うか未だに本当の、本物のヒバリだって信じられない。

じーっとヒバリの顔を見てたら、紅茶の入ったカップを2つ手にしてオレの方に近寄ってきた。
すぐ隣に座って、「そんなに見られたら穴が開きそうだ」なんて言ってヒバリは笑った。…それでもオレはヒバリを見るのを止められなかったんだけど…。
ソファの背凭れ沿いに回されたヒバリの腕の温かさと、ヒバリの入れた熱い紅茶を飲んで、ようやく現実だという事が体と脳にじわりと広がってきた気がした。

「そういえば此処までどうやって来た?」
「あぁ…跳ね馬に空港まで迎えに来てもらって、ここまで送ってもらったよ」
「え?」
「隼人を驚かせたくてね。あのへなちょこがうっかり口でも滑らせて君にばらしちゃうんじゃないかって心配してたんだけど、どうやら大丈夫だったみたいだね」

回した手で、オレの髪の毛を梳きながら、こめかみにヒバリが口付けた。
しかし、久々に感じるその柔らかい感触もオレの沈んだ心を浮上させる事は無かった。

以前のオレはそうでもなかったと思うのだが、最近ちょっと…何と言うか…嫉妬深くなったような気がする…。
今だって、オレに内緒で(オレを驚かせたかった為らしいけど…)ヒバリが跳ね馬と連絡を取り合って、一緒に行動したと聞いてなんだかモヤモヤした気持ちになってしまったのだ。
もっとも、それを素直に口に出したりはしない…しないけど…、何だかヒバリの視線が痛かった…。

「隼人…もしかして、拗ねてる?」
「ばっ!馬鹿か!何でオレが!」

って、こんな過剰反応、ヒバリの思う壺じゃん!
案の定ヒバリは、にんまりと嬉しそうな顔をしていた。

「隼人もヤキモチやいてくれるようになったんだね」
「ちっ!違ぇよ!アホっ!誰が妬くかっ!」
「顔真っ赤。そんなに照れなくてもいいのに」

言われるまでもなく熱い顔は更に熱を帯び、見た目も相当赤いだろう事は自分でも分かった。
恥ずかしくて、ちょっとヒバリから距離を取ろうとカップをテーブルに置き、立ち上がりかけたところでヒバリに手を取られた。

「隼人…せっかっく久しぶりに会えたんだから」

そう穏やかに、優しく言って、手を引かれては抵抗できるはずも無かった。
せめて…と、そっぽを向いていたがヒバリの嬉しそうな気配は見なくとも伝わってきた。
優しく後ろから腰に手を回され、項に熱い息と柔らかい唇が触れ、オレの心臓が大きく跳ねた。

「ひ、ヒバリ…っ」
「うん。隼人の匂いだ…」

ヒバリは会えなかった間を埋めるように、殊更ゆっくりと唇でオレの体を辿りだした。
項から首筋…そうして耳たぶに至ったところでオレの体が大きく震え、ヒバリの動きが止まった。

「これ、何?」

腹の前でゆるく組まれていた手がオレの耳に触れる。
そこにはつい数日前からつけ始めるようになったピアスがあった。

「どうしたの?」

先ほどの柔らかい空気はどこへやら…ヒバリは妙に固い声で聞いてきた。
え?え?もしかして怒ってる?

「どうしたのって…開けたんだけど…」
「何で?僕に何の相談も無しに…」
「え?だって別にピアスくらい…」
「しかもさぁ…これ開けたの誰?」

あっ!そこか!

オレはようやくヒバリが怒っている理由に思い至った。
まずい…別に内緒とかでは無かったのだが、ついうっかりしていた。
いや…いつかは知れる事だけど…心の準備ってモノが…。

「隼人」

静かに促されオレは白状した…。

「…シャマルに…」

って、言った途端、後ろのヒバリの怒りのオーラが増したのを感じた…。
ものすごい力で両肩を掴まれ、ヒバリの方へ方向転換させられた。

「君ね…まだ、分かってなかったの?…あの人と接触禁止って言ったよね?」
「う…」

コイツは本当にシャマルの事を蛇蝎の如く嫌っていて、オレにシャマルと話すな、とかシャマルに近寄るなとか、髪型を替えろだとかアレコレ言っていた。
でも、いくらヒバリでも、そんな事言われても無理な事で…もちろんヒバリもオレが完璧にシャマルと切れるなんて思っていないだろうけど、気に入らないのもまた事実…。

そうして蕩けるように甘い再会のひと時は急遽お仕置きタイムへと変わっていった…。



ぐったりとシーツの波に埋もれた隼人。
すでに意識は無いようで、息をしているのか?と疑問に思う程だが、当然ちゃんと生きている…。

久し振りに会った隼人は相変わらずの綺麗なエメラルドグリーンの瞳を驚きに彩って僕を出迎えてくれた。
触れる温かさも、煙草とトワレと体臭が入り混じった香りも、全てが以前に会った時と同じ、そのままで…僕はそんな彼を味わうべく口付けたのだけど…決定的に以前と違う彼を見つけ、忌々しいあの男の気配を感じた…僕よりも隼人に近いトコロにいて、隼人が身を預け、委ねるあのムカつく男!

ただでさえ久し振りで抑えきれる自信など無かったというのに、隼人の体を気遣う余裕はあっと言う間に霧散してしまった。

そしてその結果がコレだ…。
今、改めて見るとさすがに可哀想になってくる…。
痛い事はしなかったつもりだが、散々焦らし続けたせいか、頬には涙の跡があり、体中色んな液でベトベトだし、僕を受け入れていた所も赤くなり熱を持っているようだ…。

ぐったりと眠る隼人の耳に、今のこの惨状の原因となったピアスは嵌っていない。
つい数日前に開けたばかりとの事らしく、まだ赤く腫れていたが、先ほど行為の最中に僕が全て外して放ってしまったので、今は小さな穴が点々と見えるだけ。
最初に事に及んだソファの辺りや、次いで場所を移したベッドに転がっているであろう忌々しいそれらは、以前から興味があった隼人が、目に付く度に買い求めていたものらしかった。
あの男が与えたものでないと分かり多少溜飲が下がった気がしたし、散々隼人をいいようにもして…だけど、それでも完全に気が晴れたわけでは無かった。

長旅の疲れや時差の関係、そうして先ほどの過剰な運動と、僕も隼人の隣で眠ってしまいたかったが今はやらなければいけない事がある。
数刻前に別れた男の携帯電話に電話を掛けて、とある依頼をした後、自分と隼人の体を清潔にして僕はやらなければいけない事の為に隼人の部屋を出た。



耳に痛みを感じ目が覚めた。
眼前にはヒバリの姿…。

ずっと会っていなかったヒバリが目の前にいるせいで一瞬夢かと思ったが、夢ではないリアルな痛みを耳に感じて手を遣るとヒバリの手に触れた。

「なに?」
「ピアス。…新しいの買ってきたから、これつけてね」

どうやら耳の痛みは塞がりかけたピアスホールに、ヒバリがピアスをつけた為らしかった。
開けたばかりのオレのピアスホールは未だ定着していなかった為に、少し外しているだけですぐに穴が狭くなり、改めてピアスを入れると痛みがあった。
普通にしていれば気にしないでいられたオレの耳は、ヒバリの所業により再びジンジンと熱と痛みを生んでいた。

「ヒバリ…。ピアス、見たい」

先ほどのヒバリの仕置きのせいで、ベッドに沈んだまま動けないでいるオレの為にヒバリが小さな鏡を持ってきてくれた。
コイツの事だから、自分の誕生石のエメラルドとか、守護者の炎のカラーと同じ(もっともヒバリ本人に守護者の自覚なんて無いけど…)アメジストとかそんな、自己主張の激しそうなピアスでも買ってきたかと思いきや、意外にオレ好みの…というか、オレの好きなブランドのものだった。
ヒバリの買ってきたピアスが例え自己主張全開なものでも、それでヒバリの気が済むのなら大人しくつけていてやろうと思っていたので拍子抜けした。
そんなオレの気持ちを知ってか、ヒバリがオレの耳を弄びながら優しい声で言った。

「今度開ける時は僕にやらせてね」

ピアスくらいオレにとっては大した事では無かったが、ヒバリにとっては重要な事らしかった。
まぁ、跳ね馬とヒバリの同行をオレが嫌がるように、人それぞれの感じ方があるだろうしな。

オレは小さく「うん」と頷いて、耳に触れるヒバリの手を引いた。
日本からの長距離移動に加え時差も有り、オレが寝ている間にピアスを買う為に出掛けていたヒバリ(…それが、また跳ね馬と一緒だったのは面白くなかったが)相当疲れているであろうその体をオレの隣に横たえさせた。

「ヒバリ…ピアスありがとう。…大事にする」
「うん」

ヒバリは返事と共にいつもと同じ優しいキスをくれた。

今日は本当に驚きもしたし、ヒバリに意地の悪い事もされたが、それでもやはり久々にヒバリに会えた喜びの方が大きかった。
次に目が覚めても目の前にヒバリがいるのだと思うと、今から起きるのが楽しみに思える。
手放しそうになる意識をなんとか引き留め、オレも就寝のキスをヒバリの瞼に返した。

それにしても、耳に感じる鈍い痛みを、心地良く感じるなんて…自分のそんな恥ずかしい思いに、赤くなる顔を隠すようにヒバリの胸に擦り寄った。
途端に緩くオレを抱き込んでくれる腕に安堵の息をつき、躊躇い無く幸せな眠りへと落ちていった。




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今日の1859第25弾


2008.12.3 1859net

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