笑顔



屋上で堂々と煙草をふかしていたところを捕獲。応接室へ連行。
ソファに座る姿は泰然というか悠然というか艶然というか…とにかく注意を受けてる人間には程遠かった。

「ちょっと。人の話聞いてるの?」
「聞こえてる」

聞いてるんじゃなく聞こえてる、ね…。
この問題児にも困ったものだ…と呆れつつも、僕は彼と二人で居られる事を嬉しく思う。

と言うのも、僕はこの問題児に恋をしていたから…。
注意を装って(いや、実際注意する事だらけなので好都合なんだけど)彼と接触を図っているなんて我ながら信じられない行動だが、実際それを実行してしまっている。

「だいたい中学生が何で煙草を買える訳?自販機は身分証ないとダメだし、一体どこの店で買ってるの?」

一応指導という名のもとに彼を応接室へ連れてきたのだし、彼の健康にも良い訳がないので喫煙について注意をする。
この子に煙草を売っている店があるのなら僕が直々に注意に行こう。
並盛で僕に逆らうような馬鹿な真似をするヤツなんて(この子以外)いないからね。
しかし彼の回答は意外なものであった。

「オレ自分で煙草買ってねぇし」

自分で買っていない…となると…

「何?まさかあのあのムカつく男に買ってもらってるんじゃないだろうね?」
「誰だよムカつく男って?」
「うちの学校の養護教諭だよ」
「なんでシャマルがオレに煙草買ってくれんだよ」

僕の脳内に真っ先に浮かんだあの男…しかし、獄寺の表情からすると、どうやら本当に違うらしい。
じゃあ、一体誰が…、と疑問に思ったところで彼はとんでもない事を言い出した。

「この辺でオレに喧嘩売ってきて負けたヤツ等が色々上納してくれんだよな〜。煙草なんて当分買わなくていいくらいストックあるし」
「は?」
「今日付けてるアクセなんて殆どソイツ等から貰ったモンばっかだぜ」
「ちょっと…何それ?どういう事?」
「オレもよく分かんないけど、とにかくソイツ等が色んなもん持ってくるから結構助かってるぜ〜」

なんて可愛い顔して笑うものだから、思わずつられて僕も笑ってしまいそうになったけど…。

「知らないヤツから物を貰うんじゃないっ!」

叩き付けた拳のせいで応接室の机を真っ二つにしてしまった。


とりあえず獄寺が身に着けている装飾品全てを没収し、分別なんて関係ない、とばかりに焼却炉に放り込んでやった。
もっともそんな事で僕の気が晴れる訳も無く…。
獄寺に貢物をしているらしい輩を草壁に調べさせたところ、獄寺を見守る会だか、愛でる会だか妙な団体が複数ある事を確認出来た。
早速そいつ等を咬み殺すべく僕は学校を後にした。



後日応接室に獄寺を呼び出し、草食動物以下の件の輩から没収した獄寺の写真等々の証拠物件を獄寺本人に見せた。
一体彼がどんな扱いを受けているのか説明し、そいつ等には彼の半径5km以内に近寄るなと釘を刺しておいた事を伝えたところで、ようやく彼も事の次第が分かったらしく、少し顔が青褪めて見えた。
明らかに隠し撮りと分かる写真や合成された画像等を見せられては無理も無い。

これは慰めるチャンスとばかりに、獄寺に近寄ろうとしたところで彼が呟いた。

「オレこれからどこで煙草買えばいいの…?」


どうやらまだまだ指導不足らしい。
それはそれで彼と接触出来る機会だ、と素直には喜べないけどね…。




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今日の1859第28弾


2008.12.23 1859net

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