再会



クリスマス休暇で賑わう空港のロビー。
僕は久々の恋人との逢瀬の為にこの人混みの中で彼を待っていた。

ようやく僕の目当ての便から降りたらしい乗客の姿が出口に見え始め、その中に銀色の頭が見えた。隼人だ。
イタリアからやって来たとは思えない小さなアタッシュケースのみを持った彼が僕の姿を認めてニコリと笑った。
人混みに辟易していた僕も思わず笑顔になるくらい、待ち遠しかった大好きな隼人の笑顔。

僕の方へ真っ直ぐと向かってきてくれる。お互い手を伸ばして触れ合った指先。
人目を気にせず抱き合うと、懐かしい馴染んだ彼の香りが僕の鼻腔を擽った。
このまま押し倒して存分に彼を堪能したくなったが、まぁ僕だって一応時と場合と言うものを弁えているつもりだ(でも隼人にはよく「時と場合を考えろ!」って言われる)
我慢できない事を彼に伝えるべく隼人の耳に唇を押し当てた。

「早く二人きりになりたいな」

隼人の体が震えたのが僕に伝わった。抱いた彼の体が熱くなったようだ。
さすがにこの場でのこれ以上の接触は不味いと思い、名残惜しかったが隼人を拘束していた腕を解く。
休暇は始まったばかりで時間はまだあるしね。





…なんて僕の理想の再会像が音を立てて崩れていく。

再会はヤニに塗れたガラス越しだった。
仕切られたその空間はガラス張りの為周囲からは丸見え。
数多居る同類の中でも群を抜いて美しい彼の容姿は、漂う紫煙や、そのヤニの付着したガラスにも遮られる事は無く…通り過ぎる人々がチラリどころか凝視しているのを見て僕は我慢出来ずにその嫌悪して止まない空間へと突入した。
僕の恋人は、もうすでに此処に入ってから相当数の煙草を吸っていたくせに、僕が腕を取って連れ出そうとしたところ「コレ吸い終わるまで!」なんて抵抗してくれた。


「飛行機は煙草吸えないのが嫌だ」

久々に再会した恋人は僕との再会を前に煙草の煙で燻されていた。
隼人は迎えに(ほんの少し)遅れた僕に構う事なく…僕との再会を一番に果たしもせずに喫煙コーナーに直行。
彼にとっては、僕<煙草なんだ…。

「哲」

名前を呼んだだけで敏い腹心は僕が何を要求したかを分かったらしく、目当てのものを僕に手渡した。
僕は受け取ったそれを隼人に向ける。
煙草に負けた悔しさをぶつけてやる!

「うわっ!?っ何すんだよヒバリっ!」
「うるさい。黙れ」
「痛てっ!目に入っただろっ!」

頭の先からつま先まで万遍無くファ○゛リーズをふり掛けてやった。
上等なスーツにキリリと結ばれたネクタイ、僕と同じブランドの革靴までしっとりする程に…。



そうして気にならない程度に乾いた隼人と車に乗り込む。
車が走り出したと思ったら隼人が僕の膝の上に向き合うように跨ってきた。車高の関係もあり身を屈めるようにして僕の首筋に顔を埋める隼人。

「なぁヒバリぃ…」

返事をしない僕に、隼人は更にその身を密着させてきた。

「オレだって早くお前に会いたかったんだぜ」

どうやら一応ご機嫌取りをしてくれるらしい…先ほど未練がましく煙草を吸っていた男の台詞とは思えないが…思えないが、彼のこの言動を嬉しく思ってしまう安い自分が情けない。
せめても、と喜色を表す事はせず、ただひたすらにまだ怒っているというポーズを決め正面を向いたまま。
そうすると彼のご機嫌取りは益々エスカレートしていった。

首や項、耳と額にやがて口に…次々と隼人からキスが施される。僕のきっちり上まで締められたネクタイの結び目に人差し指を差し込んだ。
僕の体はこれからの行われる事を想像してどんどん熱をもっていく。
隼人の吐く息もずいぶんと熱い。少し顔を離して潤んだ目で僕を見詰める。

「だからさ…プライベートジェット機買って」
「は?」
「だって飛行機あれば煙草我慢しなくていいしさ。な?」

な?って…一体飛行機っていくらするの…?そんな「煙草買って」みたいに軽く言われても…。

「買ってくれたら今日から三日間、オレお前の言うこと何でも聞くし」

え…?何でも…。今まで断られ続けたあんな事やこんな事も…?
どうしよう…ジェット機くらい安いかも…なんて思ってしまった…。
って言うか隼人一体何処でこんなおねだりの仕方覚えてきたのっ?

後でしっかり聞かせてもらわないと!と思いつつ、ジェット機の見積りを取ろうとしている僕…。
今年のクリスマスプレゼントは高くつきそうだな…。




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今日の1859第30弾


2008.12.26 1859net

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