裏腹



※このお話のヒバ獄は、雲雀さんからのお願いという脅しにより、10代目が二人の仲を取り持ってお付き合いが始まってます。


今日は土曜日…学校は休み…なのにオレは今学校に来ている。 10代目と一緒に作ったチョコを手にして…。

先日、10代目が「今年は逆チョコていうのが流行ってるらしいね。オレも京子ちゃんに渡してみようかな」と仰られ、それならオレが是非お手伝いを!と思ったところ10代目御自ら「獄寺くん、手伝ってくれる?」なんて有難いお言葉を…!!オレの両目は感動で潤み、10代目のお姿がぼんやりと滲んで見えた。

しかし、だ。一体どこでどうなってこうなってしまったのか…。
オレは10代目のチョコ作りを手伝いに行ったつもりだったのに、何故か10代目に手伝って頂き、オレもチョコを作ってしまった…。

オレが作ったチョコは姉貴が作った物の一歩手前みたいな見た目だったが、一応味見したら食えた…ミルク系で作ったつもりがビターと言うか、ほろ苦い感じだったけど…。
でも、腹が痛くなる事も、食えないって程の事も無かった…一応人が食べられるというのは確認済みだ。

しかも、出来上がった其れを用意されていた箱と袋で包まれ、立派なプレゼント仕様にされてしまった…。
「折角だから雲雀さんに渡してみたら?」とか何とか10代目に言われ、オレは本日休みだというのに中学校の校門前に立っていた。

まず、オレはアイツの連絡先なんか知らないし、家なんて余計知らねぇ…でも、このチョコは今日渡す事に意味があるんだから!と10代目に力説されてしまい、やけに必死な御様子の10代目の勢いに押されるように此処まで来てしまった。
だいたいオレがこれを持って学校に来たのはいいが、これでアイツが居なかったらオレって超間抜けじゃねぇか?

オレは10代目に言われたから仕方なく来てやったんだ!と心の中で誰にとも無く言い訳をして、無人の校舎を目一杯力を込めた視線で睨み付けてやった。
しかし、そんな自分の行動を虚しい事だと気付き、一つ舌打ちをして覚悟を決めると、閉じられた門扉に手を掛けた。
勢いを付けて我が身を引き上げ、門扉の上に片足を掛けたところで背後から声を掛けられた。

「不法侵入者」

静かな、しかしやけに響くその声を、心構えが出来ていない状態で聞く事に未だ慣れないオレは、思わず跳ねた鼓動につられて門扉の上から無様に滑り落ちてしまった。

「…っ!!」
「獄寺っ!?」

珍しく慌てた声を上げたヒバリは、先程のオレとは違い軽やかに門扉を跳び越えてオレの側に寄ってきた。

「怪我しなかった?」
「………」

モロに肩から落ちて、ぶつけたそこは痛かったが耐え切れない程ではなかった。
兎に角いつまでもこんな所に倒れこんでいるワケにもいかず、身を起こそうとするとヒバリがすぐに手を伸ばし起き上がるオレを支えてくれた。

付き合い始めて分かったが、コイツは意外に過保護なヤツだった。
始めは何の冗談かと思った付き合いもすでに数ヶ月が経ち、今ではコイツのオレに対する思いってのを少し分かってきたつもりだ…。

「…ごめん。僕が急に声掛けたから…」

ほら、こうやって本当に済まなそうな顔をする……天下の雲雀恭弥サマが、だぜ。
コイツにこんな顔させられるのはオレだけなんだ…って、最近そんな優越感を覚える事も多い。
本当はオレの気持ちだって以前とは違ってきてるんだ……でも、それを素直に認めるのも癪で…だってあんなに嫌っていたのに…いくら10代目に言われたからって移り気が激しすぎないか?
しかし、仕方なく付き合ってやってるんだ、なんて言う意地を張り続けるのもそろそろきつくなってきた…。

最初はヒバリの好意を、それに伴った行動を、オレは素直に受け入れるなんて出来なくて、むしろ反抗する事の方が多かった。
しかし、そんなオレの態度を気にした風でもなくヒバリはオレに優しく接し続けた。
最近では素直に自分の気持ちを伝えてくるヒバリに対していると、申し訳ないような気持ちになる…。オレの下らない矜持なんて今すぐ捨てて、この身も心も…全てを委ねてしまいたくなる。きっとそれは心地良い事なんだ、と容易く想像出来るくらい、ヒバリはオレに優しかった。

そう思ってはいるんだけど、自分でも相当な意地っ張りだと自覚のあるオレは、素直に自分の気持ちを認める事も表す事も出来ず…今日も10代目の為に、なんて言い訳をして自分を誤魔化しているんだ。

でもさ…そんなオレでも今日くらいは…。
いつもより早いテンポで聞こえる鼓動…熱くなる頬…そんなものを自覚しながら、今日この日に渡すべきモノをヒバリに…

「あーっ!!」

今日この日の為に…自主的に用意した訳ではなかったが、ヒバリに渡そうとようやく決意したそれは、オレの身体の下敷きとなって見るも無残な形となっていた…。
…せっかく10代目と一緒に作ったのに…そりゃ最初はヒバリに渡すつもりなんて毛頭無かったが…それでも……途中からそういう目的をもった物になってからは、一応貰われるコレの事をアレコレ想像はしてみたんだ。美味くもない、見た目だってひどいコレを素直に渡す事も出来ず…でも、それでもきっとヒバリは嬉しそうな顔でオレに礼を言うであろう事を…。
校門を乗り越えるまでは嫌々やってるんだと思っていたはずなのに、何故こんなに落ち込む必要があるんだろう…。
しかし、そうは思うもののちっとも気分が浮上しないまま、無様に潰れた袋を見ていた。すると、突然その袋が眼前から消え失せてしまった。
慌てて顔をあげるとヒバリの白い手が、ぺちゃんこに潰れた、しかも土に汚れた袋を摘み上げていた。

「…ちょっ!!返せっ!」
「どうして?」
「…どうしてって…」
「僕に、じゃないの?」
「ちっ、違ぇよっ!」
「じゃぁ、校内に不要物を持ち込んだって事で没収」
「はぁっ!?」
「あと反省文。応接室においで」
「今日は学校休みだぞ!」
「そんな学校に侵入しようとしてたのは、一体誰かな?いいから、さっさと立つ」



応接室に連行されたオレは、反省文の代わりにホットショコラを振舞われた。

熱いホットショコラに息を吹きかけて冷ましながら、チラリと対面に座るヒバリに視線を遣ると、ヒバリはオレが作ったチョコを嬉しそうな顔で摘んでいた。美味くもないチョコを、よくもまぁそんな幸せそうな顔で食えるもんだ。ヒバリのその表情の理由をもちろんオレは知っていたが、それに応えるのはとりあえず一ヵ月後までとっておこう…。

オレは火傷しそうに熱くて、蕩けるように甘いホットショコラを、まるでヒバリのようだ、なんて思って…そんな事を考える自分を恥かしく思いながら、柔らかな湯気の立つそれをそっと啜った。


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今日の1859第35弾


2009.2.18 1859net

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