裏裏腹



※ヒバ獄ですが、獄寺全く出番無しです。



心地良い日差しが窓から差し込む2月某日の午後。
教師の声、黒板に文字が記される音、時々誰かが咳をしたり、そんな授業の当たり前の音達全てが子守唄にしか聞こえない。睡魔と闘う事を疾うに放棄したオレはすでに半分夢の中。 しかし、その幸せな時間は本格的に夢を見始める前に強制終了されてしまった。

多分教室内の大半の生徒がオレと同じ状況だったんじゃないかと思う…そんな教室内に突然響いた大きな音は扉が勢いよく開けられた音だった。
教室ごと大きく揺れた気がしたが、実際は自分が驚いた所為だろう…音の根源に目を遣るとそこには並盛中の風紀委員長が立っていた。

「沢田綱吉。ちょっと」

見た瞬間嫌な予感はしてたんだよな…最近いい加減耐性がついてきたオレ。
慣れとは恐ろしいもので、近頃のオレは以前程彼の姿を見ても萎縮したり、緊張したりするという事が減っていた。
呼びかけに応じて教室を出る。当然教師はそんなオレを咎める事はしない。呼び出したのが雲雀さんじゃあね…。
雲雀さんの後を付いて行き辿り着いたのは応接室。室内に入り設えられたソファに向かい合って座る。

「今度の土曜日なんだけど…」

そう言ったきり黙ってしまった雲雀さん。
今週の土曜…何かあったけ?と、首を傾げて考えていると、雲雀さんが「2月14日」と言った事でようやくオレの頭にもその日が何の日であるか思う浮かんだ。
2月14日…バレンタインデーだ…。

「…彼、何か言ってた?」
「………」

まぁ、雲雀さんがオレを呼び出す理由なんてきっと彼の事だろうと言うのは分かっていた…彼の事じゃなければいいのに、とも思っていたけど…。

「いえ…何も…」
「今年は土曜日で学校は休みなんだよね」
「?…はい」
「何呑気な顔して返事してるの?僕と獄寺の接点といったら学校以外は無いんだけど!」

「それは知ってますけど、それでオレにどうしろと?」…とはさすがに聞けなかった…。

雲雀さんは一体どこでどうしてそうなったのか不明だが、獄寺くんの事を好きになってしまったらしい…。
雲雀さんのお願いという名の脅し+リボーンの「これもファミリーの為だ」という台詞に屈し、オレは雲雀さんへ協力する事となってしまった。
そしてオレの言う事に逆らえない…と言うとなんだかすごく感じが悪いけど…でも、まぁ実際その通りで、オレがそれとな〜く獄寺くんに雲雀さんを売り込んで、あれこれありつつ結果二人はお付き合いを始める事となった。

しかし、付き合いが始まってからも、オレはお役御免とはいかず、度々獄寺くんが居ない隙に連行されては無理難題を吹っ掛けられたり、のろけられたり…。

「…雲雀さん、まだ獄寺くんの連絡先聞いてないんですか?」
「…悪い?」
「…いえ…」

全くこの人は奥手過ぎるというか…普段強引というより人の都合なんて一切考慮しない性格にくせして、獄寺くんには強く出られないらしい。
付き合うって言っても、たまにに二人でお昼ご飯を食べたり、獄寺くんがサボる時に応接室を利用したり、といった程度で、それもオレが雲雀さんの無言の圧力を感じて獄寺くんに「オレは京子ちゃんとご飯食べるから、獄寺くんも雲雀さんと食べて来なよ」とか、サボりの報告を受けて「今日は天気も悪いし寒いから、応接室に行ったら?風邪ひいちゃうよ」とか、我ながら獄寺くんが断り辛いようなズルイ言い方で獄寺くんを応接室に送り込んでいたのだけど…。

そんな二人が一体応接室でどんな風に過ごしているのか、興味が無いと言ったら嘘になるが、それを知る為にはとんでもない厄介な事になるのは分かっているので、放っているんだけど…でも厄介事は大抵向こうからやって来る。

「僕チョコレート食べたいな」
「………」

もう、それだけ聞いて雲雀さんが何を欲しているのか分かる自分が悲しい。風紀委員副委員長の草壁さんなんかは、雲雀さんがこんな事言い出す前に行動するんだろうけど、生憎対獄寺くんに関しては草壁さんも事前に動いてどうこう出来る相手でもない。
よってオレが呼び出されて、いつもこうやって遠回しに要求されるんだけど…。

こんな遣り取りも何度目だろう…。付き合い始めてからのイベント事の度だ…意外に雲雀さんはイベント事に熱心だった。クリスマスや初詣…まるでOLのように…いや、その辺のOLよりも熱心だった…。
嫌だな…雲雀さんが並盛ウォーカーとか並盛一週間とかチェックしてたら…。

「ちなみに手作りじゃないとヤダから」
「…雲雀さん…獄寺くんが料理作ってるの見たことあります?」
「無いけど……何それ?自分は見た事があるっていう自慢?」
「ちっ、違いますよっ!!」

鋭い視線を向けられ慌てて否定する。
何で獄寺くんの料理してるとこ見たからって自慢になるんだよ!?と言うツッコミはもちろん心の中でだけである。

「とにかくっ!雲雀さん獄寺くんのお姉さん知ってますよね?」
「あぁ。あの強烈なお姉さんね…」
「そうです。「あの」強烈なお姉さんです。…とにかく、あのお姉さん絡みで獄寺くん全く料理出来ないんですよ」
「……まぁ方法は君に任せるよ」
「でも、家にはそのお姉さんが居て、バレンタインにはリボーンの為にチョコを作るってすでに張り切ってますし、獄寺くんの家で作るとなると…」

そこまで言ってチラリと雲雀さんの方を見ると、再び人の事を射殺しそうな勢いで睨んでくれた。

「あの子の家に行くなんて絶対駄目。仕方ないから特別に学校の調理実習室を貸してあげるよ」

さすが並盛の秩序。自分の欲望の為なら教室の一つや二つ解放するのは朝飯前らしい…。
そうしてオレは獄寺くんと作るチョコの事を想像し、大きな溜め息をついた。



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2009.2.18 1859net

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