世界が終わる日に



「なぁ、もし地球が滅亡するとしたら、お前どうする?」

獄寺が愛読している雑誌に書かれていた、いつか起こるかもしれない地球滅亡の日について。
小惑星が地球に衝突して地球上全ての生物が死に絶えるその日。
自分の隣に居る男がどういう風にして、その時を過ごすのか気になった。

「どうした?」
「いや…これに書いてあって…」

「これ」と言って獄寺が手にした雑誌の表紙を示すと、小首を傾げてその表紙を覗き込む。示したそれを認めたディーノの表情が緩んで笑みを浮かべた。
バカにされたようなその表情に少し腹が立った。

「ハヤトもそういうの好きだよな〜」
「うるせぇ。いいから答えろよ」

ソファの背凭れに沿うようにして回された手で頭を撫でられ、笑いながらこめかみに口接けが落とされた。
普段へなちょこなくせに、こういう事だけは此方の反応が間に合わないほど、素早く鮮やかにやってのけるディーノ。
経験の差を見せ付けられているようで気に食わないのと、単純にキスされて嬉しいのと…どちらの感情が優勢なのか自分でも判断つきかねて、再び近付く顔を雑誌の表紙を押し付けて追い返す。

「ひでぇな。地球が終っちまうんなら心置きなくハヤトにキスしたいんだけど」

雑誌の向こうでディーノが笑っている気配が伝わってきて、再び押し退ける腕に力を込めたが、獄寺のそんな抵抗等構わずに、雑誌に手を掛けて下ろされてしまった。
直接見合わせた瞳は優しげに此方を見ていた。
視線を逸らすのは負けるみたいで悔しかったが、かと言って、見詰め続ける事も恥ずかしくて出来ずに顔を俯ける。
相変わらず肩に回された方の手は、獄寺の銀糸のような髪の毛を梳いたり、頭を撫でたりしている。
そして、梳きながら耳に髪の毛を掛け、その露わになった耳に吹き込むようにディーノが口を開いた。

「そうだな…本当に皆終るんなら…もうキャバッローネのボスも引退だ。…そうしてボスでもなくなって…」

言葉半ばで後ろ髪を引かれて顔を上げさせられた。
答えの続きを聞く為に、抵抗する事なく合わせた瞳。

「お前だけのものになるよ」

確かに聞こえたはずなのに、言われた意味が理解出来ずに優しく獄寺を見詰める瞳にじっと焦点を合わせたまま、言われた言葉を脳内で反芻する。

「誰のボスでも何でもなくて、ハヤトだけのオレになって、一緒に最後を過ごすよ」

そうして、ようやく言われた事を理解して、それと同時に熱を持つ顔を自覚した。
視線を外し、顔を俯けようとしても、触れた手がそれを許してはくれなくて…覗き込むようにして再び合わせられた瞳。

「だから、お前もさ…」

只でさえ至近距離で見詰め合っていると言うのに、お構い無しにディーノの顔は近付いてきて…熱い吐息と一緒に唇に言葉が触れた。

「その時は誰かの右腕じゃなくて…オレのハヤトになってくれよな」

オレは最後まで10代目の右腕だ。
そう言おうとするが、…言わないといけないのにオレの口からはその一言が出なくて…。

ディーノの言葉を嬉しく思うなんて…右腕失格だ。
そう思うのにやっぱりオレの口から言葉が出ることはなくて。
そうして触れる唇を拒む事も出来なかった。



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