大好きな人



獄寺くんがボンゴレで経営しているホテルと、それに付随したカジノの視察に出て5日。
オレの執務室の机上にはみるみる書類が積まれていき、リボーンには小言を言われ続け余計に仕事が進まない。
ほとほと弱り切っていたいたところへ、救世主登場!視察に出ていた獄寺くんが予定よりも2日早く戻ってきてくれた。

疲れているだろうに自室に戻ること無く、真っ直ぐオレの執務室にやってきた獄寺君は、オレの机に山積されている書類を見ると嫌な顔一つせず、むしろ笑顔で「さっさと片付けちゃいましょうね」なんて言って、まさに有言実行。みるみる書類の山は減っていった。
リボーンの「だらしねぇな」なんていう小言だって気にならない。
書類の山がオレに直接乗ってた訳でもないのに、オレの体も心もどんどん軽くなっていった。
大袈裟なんかじゃなくて獄寺君の背中には羽が生えているみたい…その羽の羽ばたきでオレも引っ張っていってくれて…そのお陰で、こうやってどんどん気分が軽くなっていくんだ…なんてオレが役立たずな妄想をしているうちに、あとはオレが目を通して決裁のサインだけすればいいように整えられた書類が少し。

「獄寺くんありがとうー。本当に助かったよ」
「いいえ。ちょうど忙しい時期にオレも出てしまって…」
「いや、アレはしょうがないよね…」

『獄寺に甘えてばっかりじゃなくて、たまには手前ぇで書類ぐらい片付けてみろ』と言うリボーンの容赦ない一言で獄寺くんは視察へと派遣されてしまった…。
獄寺くんは抵抗したのだが(右腕が10代目のお側を離れる訳にはいかない!とか言って、終いには泣き落としも使っていたが)当然リボーンには通用しない。
そうして残されたのは書類の山とオレ…。

獄寺くんが居なくなってから刻々と増えていく書類の山…でも、そんな日々ともようやくお別れだ!
ここ最近無いくらい気分が良かったオレは獄寺くんに声を掛けた。

「獄寺くん、疲れてる?もし良かったらこの後ご飯食べに行かない?」
「えっ!?いいんですかっ!!?」

食事如きで大袈裟な…と言うようなリアクションの獄寺くん。
ちょっ!そんな、目を潤ませ無くても…。

「じゃぁ、さっさと終らせちゃいましょうね!…あ!10代目、何をお召し上がりになりたいですか?」
「そうだね…じゃぁこの前会合に使ったお店なんてどう?」
「いいですね。オレ予約してきますっ!」

携帯電話片手に執務室を飛び出して行った獄寺くん。
普段はボンゴレボス10代目の右腕として各ファミリーに恐れられている獄寺くん…でもオレを前にすると出合った中学生の頃から変わらずな調子で。
昔はそんな獄寺くんを敬遠してたんだけど、今でもオレの前では変わらずに居てくれる獄寺くんが嬉しい。

予約を終えてきたという獄寺くんと再び机に向かっていると突然大きな音が響いて。
驚いて音の根源に視線を遣ると、観音開きの扉を両方開け放って、雲雀さんが仁王立ちしていた…怒りのオーラを背負って…。



「急に約束反故にするなんてどう言う事?」

ノックも無しに人の部屋の扉を開け、更に部屋の持ち主に許可を得る事無くズカズカと乗り込んでくる雲雀さん。
しかもその持ち主=オレの事なんて全く無視して獄寺くんの方へと歩を進めている。

「急用が出来たから行けなくなったって言っただろ?」

獄寺くんはと言うと、手元の書類から顔を上げもせず…雲雀さんの方を見もしないで答えていた。

「急用って何?」
「うるせぇな…10代目とお食事に行くんだよ」

…って!獄寺くん、もしかしてこの後雲雀さんと会う約束してたの!?
焦るオレを雲雀さんが眼光鋭く睨む。ひ〜〜〜っ!!

「ごごごご獄寺くんっ!先約があったんなら言ってくれれば良かったのに…食事はまた今度って事で今日は…」
「いえ!せっかくですから10代目と!」

にっこり眩しい笑顔でオレの方を振り返る獄寺くん…雲雀さんの方が怖くて見れない…ギリギリ音がするのは何の音でしょうか…?
お願い!獄寺くん!!オレの事を思ってくれるなら、今日は大人しく雲雀さんとの約束を優先させて!!

「隼人…会う約束をずっと君の都合でキャンセルされてるんだよ…。今日は大丈夫って言ってたよね?約束破るの?」
「だから!今度埋め合わせするって言ってるだろ」
「それ何回も聞いて、今日がその埋め合わせの日だった!」

ホントお願いですからオレの部屋で痴話喧嘩は止めてくれませんか?…なんて差し挟めない勢いの二人…。
どうしよう…書類を抱えて部屋を離脱しようかと思ったその時だった。
突然獄寺くんが机に書類を叩き付けるようにして置くと立ち上がった。

「あぁ!もう、うるさいっ!分かったよっ!!…10代目…すみません…」
「大丈夫っ!!オレはいいよ!…うん。うん。約束はちゃんと守らないと…」
「ありがとうございますっ!!…良かったなヒバリ!10代目に感謝しろよ!…ったく、折角の10代目とのお食事だったのに…」




って、ねぇ…何で獄寺くんと雲雀さん…そしてオレの3人でテーブル囲んでるワケ?


雲雀さんもオレも、獄寺くんが雲雀さんとの約束を優先させるんだと、てっきり思っていたのに…。
獄寺くんは「じゃぁ行きましょうか」なんてオレ達二人に向かって言い出して…。

先刻のオレに対する獄寺くんの謝罪と感謝は、オレとの食事に雲雀さんを同席させる為のものだったらしく…つい、彼の上機嫌な様子に抵抗する事なく3人でテーブルを囲む事となってしまった…。
さっきから雲雀さんの『沢田…(殺す)』と言う視線が痛くて、美味しいはずの料理の味が全く分からない…。
ご機嫌なのは獄寺くんただ一人…。

そうだよね…昔から慕っているボスと、何だかんだ言いながら大好きな彼氏に囲まれてする食事はさぞ美味しくて、楽しいだろうね。
オレは、もう二度と獄寺くんを誘う事は無いな…そう決心しながら、何だかよく分からない料理を、ただ、ただ咀嚼し続けた。



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2009.3.13 1859Online

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