ブルーバード



オレとヒバリがマス掻きっこの延長でセックスするようになって早数年。
始めの切欠も覚えてないし、一体どうしてオレだけが突っ込まれる方になってしまったのか疑問だが、中学時代から始まったこの関係は、ヒバリが高校に進学した今も途切れる事なく続いていた。
以前は中学の応接室やらとんでもない所でヤった事もあるが、ヒバリが高校生になってからは、専ら一人暮らしのオレの家が使われている。
今日も家を訪ねてきたヒバリと致して、そして、オレはちょっと思うところがあった。

「なぁ…オレ達いい加減このままじゃまずいよな…」
「何が?」
「いや、だからさ、セックスの相手がお互いだけってまずくね?」
「何が?」
「何が…って、いつまでも男同士でやってる訳にもいかないじゃん…だから、ここらで女ともやっておいた方がいいのかな、って…」
「別に構わないんじゃないの?世の中僕等よりも年嵩で経験の無い人なんて五万といるよ」
「そりゃ…お前は突っ込む方だからそう悠長な事言ってっけど、オレなんてお前が後ろ使わせてくんねーから未だに童貞なんだぞ…って、何こっ恥かしい事言わせてんだよ!!」
「君が勝手に言ってるんでしょう」
「兎に角!!いい加減男同士じゃなくて、ここらでお互い一回は女と経験しよう!!」
「めんどいからヤダ」
「馬鹿か!お前は!男同士のセックスの方が余程メンドイだろっ!」

そうだ。
だって男同士は欲情してもすぐに突っ込むって訳にもいかず、それなりの準備が必要である。
しかし、一見乱暴なセックスをしそうなヒバリだが、意外にも此方の事を気遣ってしてくれるし、上手いのか体の相性が良いのかコイツとするのはハッキリ言って気持ち良い。

あと、実は最近とってもまずいと思うことがある。
以前はそんな事なかったのだが、セックスの最中あまりに興が乗り過ぎて、つい色んな何かが盛り上がってしまい、キスまでするようになってしまった。
それが、更に気持ち良くて…っていうか気持ち良過ぎて、おかしくなるんじゃないかと思うほどで。
別にキスを特別視している訳ではないが、ソレ系の初めてが全てヒバリというのが情けない。
初めての相手を今更取り替える事は不可能だが、これで、ヒバリを掘る事にでもなったらグランドスラム達成!って、洒落にならないし…マジで笑えない…。
まぁ、突っ込む方がどんだけ気持ち良いのか興味があって、何度かヒバリに頼んでみたが、ヒバリが受身は絶対に嫌だと断固拒否してくれているので突っ込む方の初めてがヒバリって事は無さそうだ…。



「まぁ、君が他の人とするのは構わないけど…気を付けてよね。君一人の体じゃないんだから」

思考中の脳ミソにヒバリの一言が飛び込んできて、思わずオレは噴いてしまった。

「おっ!!…お前!なんだよ!!それっ!?バッカじゃねーの!?」
「変な病気もらってきたり、おかしな女に付き纏われたり、なんて面倒事をこっちに持ち込むな、って事」
「あ、アホか!そんなへまするかよ」
「どーだか…」
「な、何だよ…?」
「別に」
「って、人事みたいに言ってるけどお前もやるんだからな!」
「僕は別にいいし」
「ダメ!ヤってこなきゃ、オレお前と一生しねぇから」
「は?君それで我慢出来る訳?後ろがないと満足にイケないんじゃないの?」
「テメェッ!失礼な事言うなよな!…兎に角!黙ってりゃ面だけはいいんだから、確りヤってこいよ!」



と、ヒバリに言ったものの、まず女としようにも、その女をどうやって見付ければ良いのか分からず、オレは途方に暮れていた。
そして、そんなオレの様子に気付いたらしい山本に気遣われ、ムカつきながらも、ちょっと聞いてみた。

「お前さ…セックスってした事あるか?」
「………は?」

山本の通じなさにムカつきを覚え、つい「セックスした事あるか?って聞いてんだろ!」と、大きな声が出てしまい、道行く人々に振り返られてしまった。
恥かかすんじゃねぇ!とケツに蹴りを入れて、三度同じ質問を繰り返した。

山本の答えは「経験有」だったのだが、相手は彼女(今はすでに別れてしまったらしい)。
…彼女…まぁ、相手としては一番妥当だと思うが、オレは別に彼女が欲しいわけではないし、それこそヒバリとのセックスより面倒臭い。
そこまでして女とヤリたいとは思えなかった。

「何?獄寺エッチしてぇの?」
「う…。うん。まぁ…」
「好きなヤツは?」
「は?」
「好きなヤツ。…いねぇの?」

何でそこで好きなヤツが出てくるんだよ…オレはセックスの相手を探してるだけなんだっつーの…。
しかし、一応聞かれた事に答えておく。

「いない…けど…」
「じゃぁ、したいだけ?」
「うん」
「………」

急に黙り込んでしまった山本。…この沈黙が気まずい…。
オレなんかまずい事言ったか?

しばらくして、山本は「したいと思う相手が出来るまで待つべきだと思うけどな」なんて、優等生&悠長な事を言いやがった…。
…したいと思う相手なんて、今はヒバリしかいない。って言うか、アイツとのセックスが気持ち良過ぎて、これからアイツ以上にしたいと思える相手に出会えるのか余計に不安になってきた…。

山本との会話で結局何も進展は無く、むしろ不安を増長させてしまった。
そうしてオレは一番相談したくなかった…しかし、この手の事を聞くには適任と言える男・シャマルの元を訪れた。

保健室にはシャマルだけしかおらず、オレは手っ取り早く「セックスの相手が欲しいんだけど、アンタが手ぇつけてないので、適当なのいる?」と聞いてみた。
瞬間、この男にしては珍しく、驚いた表情を浮かべ、次いで眉間に皺をよせたかと思うと、グーの形をした拳がオレの頭上に振り下ろされた。

「痛ぇ!!何すんだよっ!?」
「何すんだ!?じゃねぇだろっ!!このバカっ!!」
「別に一人くらいいいだろ。ケチ!」

それを聞いたシャマルが今度は呆れたような、憐れむような視線をオレに向けてきた。 シャマルは大きく溜め息を一つつくと「座れ」と、厳しい声を出した。命令口調にムカついたが、逆らえない何かをその言葉に感じて、大人しくシャマルの向かいにある小さな丸椅子に腰掛けた。

「何だって急にそんな事言い出すんだ?」

あ。やばい…。
真剣お話モードになってしまった…。

まさかヒバリとセックスしてて、気持ち良過ぎて、焦ってここらで女に軌道修正しようかと…なんて正直に話すわけにもいかず…。
オレはしどろもどろに何とか誤魔化しの言い訳をする。
山本がした事あるって聞いて、それで焦って云々…と、言ってはみたものの、シャマルは疑いの目でオレを見ていて、全く、微塵も誤魔化されてくれる様子は無い。まぁ、ガキの頃からの短くはない付き合いで、オレの嘘を見抜く事くらいコイツには朝飯前だろう。

「いいか?そんな下らねぇ理由で女の子を抱きたいなんてアホな事言ってねぇで、大好きなマフィアごっこでもしてろ。第一そんな理由じゃ相手になった女の子が可哀想だろーが。おら、もう行け。そんな辛気臭ぇ物騒なガキが居たんじゃ可愛い子猫ちゃん達が入って来れねぇだろ」

そう言ってオレの頭に手を伸ばすとわざと乱暴な手付きで髪の毛を乱すようにして頭を撫でられた。
お前みたいに相手を取っ替え引っ替えしてるヤツに言われたくねぇよ。とか、誰がこんなエロ医者が居るところに来るかよ。なんて、いつもの調子で返したかったのだが、コイツはオレが本当の理由を言わない事を…言えない事を分かっていて、誤魔化された振りをしてくれたのだ。そうしてオレが此処を出て行き易いように、冗談めかして追い出すようにしてくれる。
なんだよ…スケコマシのくせに…カッコつけやがって…。


結局山本とシャマルにまで「女とセックスしたい」なんて事を言ったのに、肝心の目的は遂行出来ず、自宅へと帰ってきた。
駅前でナンパ。ネットで見付ける。上納してくる高校生に紹介を頼む…等々色々考えてみたが、想像だけでうんざり。そこまでして見付けた相手とセックスをする事と、ヒバリとのセックスを天秤に掛けてみるが結果は明らか。わざわざそんな面倒臭い事をせずとも、手を伸ばせばすぐそこに、この上ない快楽を与えてくれるヤツが存在しているのだ…そう考えるとオレのヤル気は益々失せていった。

ソファに横になり、ぼんやりしていたオレの耳に玄関の扉が開く音が聞こえた。
そうして部屋に現れたのは想像通りヒバリだった。

「どう?相手は見付かった?」
「…うん」

ソファの空いたスペースに腰掛けるヒバリ。
オレは手を伸ばしてヒバリのネクタイ掴んで引き寄せてキスをした。

「当分はこれで」

珍しくヒバリが笑っていて、今度はヒバリからキスをされた。
うん。ただ唇を合わせるだけの事なのに、ヒバリとするそれはやっぱり気持ちが良い。
もう、これだけでどうでも良くなってきて…結局そのままソファの上で抱き合った。



あ…ヒバリは誰か他の女としてきたのかな?

肝心な事を聞いていなかった…と、思い出した時にはすっかり疲れきっていて寝入る寸前で。
まぁ、すぐ隣からヒバリの寝息が聞こえている…明日聞けばいっか。



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2009.3.29 1859Online



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