不意に訪れた彼の部屋。
読書中だったらしく、片手に本を持って、眼鏡を掛けたままの状態で出迎えられた。
玄関先で我慢出来ずに腰に手を回し引き寄せる。
空いた手で眼鏡を外して、顔を寄せようとしたところで突き飛ばされた。
明らかな拒絶に突き飛ばされた僕はもちろん、突き飛ばした彼も驚いていた。

「ご、ごめん…」
「いや…僕も…」

彼が恥ずかしがり屋なのは知っている。
最近ようやく口付けを交わすようになった。一人暮らしとはいえ、いきなり過ぎて驚いたのだろう…そう思っていた。
彼の部屋、二人で過ごすときの定位置であるソファに腰掛ける…いつもと違う距離に違和感を感じるまでは。

「ねぇ…何でそんなに離れてるの?」
「!!…そ、そんな事ないけど…あ、オレ飲み物持ってくる!」

明らかに挙動不審な獄寺。
慌てたように立ち上がった彼の腕を取り、よろけた所を体ごと抱きしめ僕の腕の中に閉じ込める。
背中から抱き込んだ体勢に、身を捩るようにして僕から逃れようとする彼。
無理矢理ソファの上に押し倒すと、潤んだ緑の目が僕を見上げた。

一体どうしたというのだろう…。
乱れた髪を撫でて、潤んだ目尻に口を寄せようとすると顔を背けて拒む獄寺。

「ヒバリ…退いてくれ…」
「どうしたの?」

泣いてしまう程僕に触れられるのが嫌になってしまったんだろうか…。
そう思った途端、世界がぐらりと揺れた気がした…。

「…だって、今日お前が来るなんて思ってなくて…」

獄寺は震えた小さな声で言った。
僕が来ると思ってなくて、どうしたの?来られたら嫌だった?…心の中の問いを口には出来なかった。
そうだ、と獄寺に肯定されたら僕はきっと立ち直れない。

「オレ…今日10代目のお家で…夕飯をご馳走になって…」

沢田の家で何かあったんだろうか…。
その先を待っていたのだけど、言い辛いらしく、なかなか言葉が続かなかった。
自分の心臓の音がやけに大きく響く中、根気強く彼の言葉を待った。

「……夕飯…ギョーザだったんだ…」
「………は?」
「っ!!…だからっ!夕飯がギョーザだったんだよっ!」
「…それで?」
「それで、って……息くせーじゃん…だから…キスとかムリ……」

そう言って顔を真っ赤にしている獄寺…。
先ほどまで何を言われるのかと緊張していた僕の体から一気に力が抜けて、心の底から安心したと同時に沸々とある衝動が沸き起こる。

彼の両頬を包んで僕の方に向けると、震える唇に、僕の唇を押し当てた。
獄寺は当然抵抗するけれど、僕はそれごと飲み込むようにして、キスを続ける。

馬鹿だな…そんな可愛い事言われて止まれる訳がない。
餃子如きの所為で肝を冷やされた恨みを込めて、でももちろんそれ以上の愛を込めて、更に深く口を合わせた。

3.夕食はギョーザだった



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2009.3.25 1859Online



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